歯の移植
むし歯や歯周病などが原因で自分の歯が残せない場合に、健康な親知らずや生えている位置に問題があって使われない歯を先に抜歯して、それを代わりの歯として移しかえる治療です。歯を失った際にその代わりの歯を補う治療ではブリッジや入れ歯、インプラントが代表的ですが、歯の移植はそれらに次ぐ第4の治療法といえます。
歯の移植の最大の利点は、人工物とは違い天然歯の機能を活かせることです。また、通常であればただ抜歯となる歯を有効活用できる点もメリットといえます。移植の状態がよければ10年、20年と長きにわたり自身の歯を使い続けることができます。
一度抜歯した歯を別の場所に移しかえると聞くと、「本当にそんなことが可能なのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。それを可能にする一番の立役者は、歯根(歯の根っこ)の周りに存在する「歯根膜(しこんまく)」という組織です。
歯根膜は根っこの表面にあるセメント質と歯槽骨の間を埋める繊維状の組織で、食べ物を噛む際に歯に加わる力を吸収し、衝撃を和らげるクッションの働きがあります。その歯根膜には非常に再生能力の高い細胞が数多く存在しており、歯根膜と一緒に歯を移しかえると移植した場所に新たな組織を再生させます。このようなメカニズムにより、一度抜歯した歯でも移植した部位で安定した状態が維持できるわけです。
移植した歯が抜け落ちず、その場所にしっかり留まる確率(生存率)は5年で約90%です。ただし、この数値は治療後も継続してケアやメンテナンスを行っていることが条件になります。
歯の移植はどのケースでも適応できる治療ではなく、治療を行うためには以下の条件を満たす必要があります。
移植する歯としては親知らずがよく使われます。それ以外に萌出異常の歯(本来生える場所とは違う場所に生えている歯)などで噛み合わせに関与していない歯も移植歯として使用可能です。
ただし、いずれの場合もその歯が比較的健康で大きなむし歯や歯周病がないこと、移植に必要な歯根膜が残っていることが条件になります。
移植歯は「根っこが1本である」「湾曲していない(曲がっていない)」など歯根が単純であることも条件の1つです。根っこの形態が複雑になると歯を抜く時に歯根膜を傷つけてしまう可能性が高く、移植の成功率が悪くなります。
条件を満たす移植歯が残っていても、その歯や歯根の大きさが移しかえる側の歯より大きすぎたり、反対に小さすぎたりすると移植は難しくなります。
メリット | デメリット |
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以下の条件を満たす歯の移植は、治療費に保険が適用できます。
親知らず以外でも移植歯として使えますが。その場合は保険適用外(税込11万円)になります。
保険適用の歯の移植は、抜歯したその日のうちに移植を行う必要があります。